内田百閒「追懐の筆 百鬼園追悼文集」

 

今まで読んだこの人の本の印象だと、勝手気儘で我が道を行く、という感じがして、友達とか少ないんじゃないかなあ、と思いこんでいたのだけれど、そんなことはなかった。こういう人だからこそ、好きな人のことはとことん好きで、心を許した人のことはずっと大切にするのかもしれない。そういえば、この人は1人で旅に出ないし、意外と寂しがり屋なのかしら。

 

基本的に好きな人のことについてしか書いていないから、本全体が優しいというか、人に寄り添う気持ちが溢れている。その中で、この人のユーモアというか、ちょっとからかうような照れ隠しのある文章が挟まれることで、くすっと笑える部分もある。ただ、宮城道雄に対しての熱量は特に高くて、思い入れが深いのか、あえて冷静に書こうとしているように感じるのが、その硬い文章に反して、人間味を感じてしまう。とても重く、そして親愛が深く、泣ける。