内田百閒「東京焼盡」

 

書いてあることは、本当にただの普通の日記だ。毎日あったこと、思ったことを、淡々と書いている。そこに差し込まれるように、警戒警報や空襲警報の時刻が記録される。何日かおき、1日おきであったものが、だんだんと毎日のこととして記される。それらは非日常で、異常のことであったはずなのに、いつの間にか日常に溶けこんでいく。あまりにも淡々と書き残され、普通のことになっていくことに、恐怖を感じる。

 

異常を異常として感知して、見ていなければ、いつだってそれが当たり前のことになってしまう。

 

戦争の最中でも失わないこの人の目線が、やっぱり私は好きだなあ、と思う。