栗田有起「卵町」

 

この人の本はよく読んでいるほうかなあ、と思うのだけれど、だいぶ久しぶりに読んだら、こんな感じだったかな、とちょっと不可思議な気持ちになった。

 

生きていれば、失くしていくものは増えていく。失くしていくものばかりが増えていくのかとも思えば、新しいものが目の前にあることもある。それに気付くか気付かないか、近付くか近付かないか、どうしていきたいのか、というのは本当に自分次第なのだと思う。でも、決めるのに早すぎることも遅すぎることもなくて、自分に必要なぶんだけ時間をかけて決めていいのだと思う。周囲の人からは心配されるかもしれないけど、それだけの時間が必要だったのだ。

 

そういう、ゆっくりと進んでいくことを、この本は見守ってくれる気がする。他人にはまったく進んでいないように見えても、それでいいのだと思う。自分が失くしたものを、心の中でしっかりと形作れるようになったり、新しいものに、やっと向き合えるようになったり、その時間はとても大きい。

 

この人の本の中には、一見へんてこだな、と思う人も出てきて、それも自分を慰めてくれるというか、許してもらえている気になれる。へんてこなんて、本当は存在しない、というか、生きている人はみんなへんてこだ。

 

なんだか読んでいたら、「オテルモル」を思い出してしまって、久々に読みたくなってしまったなあ。