よしもとばなな「チエちゃんと私」

 

チエちゃんと私 (文春文庫)

チエちゃんと私 (文春文庫)

 

 本が発売したときじゃなくて、今の自分がこの瞬間に読むべきときに手元にやってくる、ということがたまにある。今回はそれが起こって、不思議なものだな、と思っている。

 

昔はこの人の本をよく読んでいたのだけれど、いつの日か、なんとなく違和感を感じるようになって、全然読まなくなっていた。感覚的というか、精神的なものというか、そういう説明しがたいものが主に書かれていて、なんだかそういうものをしんどいと思う時期だったんだろう。今読んでみたら、すっと自分の中に入ってきて、すんなり受け入れられた。ようやく自分も、不意に縁を結うことも、人生の波にいつの間にか乗っていることも、人間てそういうものだなあ、と思うようになったということかもしれない。

 

私はいまだに、思いきり人を愛したことも、人に愛されたこともない。だから、いまだにリハビリみたいなものは終わっていないなあ、という気がしていて、その欠乏とか焦燥とか希求とかが、自分の書いているものだよな、と思っている。いつの日か、自分の書くものが変わるか、まったく書かなくなったとき、満たされているのだろうか。よくわかんないけど、なんか笑っちゃうな。