三島由紀夫「三島由紀夫レター教室」

 

三島由紀夫レター教室 (ちくま文庫)

三島由紀夫レター教室 (ちくま文庫)

 

 最近、私の中でちくま文庫が熱い(というほど読んでいないか)。この話は女性誌に連載していたらしく、軽い感じとちょっとした皮肉がチクチクと入っていて、他のこの人の話より全然読みやすい。この前読んだ「命売ります」もとても軽くて明るい感じだったし(死がテーマのはずだが)、ちくま文庫のチョイスがいいなあ、と思う。

 

本人が言っているけれど、手紙は1通の中で一度世界が終わる。一方的に話しかけているだけなのに、どんどん世界が広がっていくのが面白い。1対1であるはずの手紙の中で、複数の人間関係が入り乱れて、ひっちゃかめっちゃか。好き放題に、書く書く書く。手紙は自分本位かもしれないけど、それだけに感情が濃いなあ。登場人物5人それぞれの特徴が色濃く出た手紙に、くすりと笑って、時々ぞっとして。人間らしい手紙を、私も書きたい。

「GRANTA JAPAN 03」

 

GRANTA JAPAN with 早稲田文学 03

GRANTA JAPAN with 早稲田文学 03

 

 雑誌や文芸誌よりも値段が高かったので、わ!とビックリして躊躇したんだけど、買ってよかったなあ。というより、むしろ、お得だね。

 

日本語作家(という括りでいいんだろうか)の話は、安定した面白さがあった。若手作家というタイトルだけど、載っている人みんな、それぞれにもう有名な人たちだから、誰にとっても好みの話はあるんじゃなかろうか。

 

私はあまり日本語以外の話を読まないでいたので、この本を手に取れたことはとても幸運じゃないかな、と思う。世界の広さを感じるのは勿論、日本語では表現できないものも、必ず存在するのだろうなあ(その逆はよく言われているけれど、日本語の間とかについて)。これだけ知らない人の話を読んでみると、日本の平和さ、閉鎖的な性質がよくわかる。それが日本語文学の良いところでも悪いところでもある、と私は思っているけど。

 

翻訳された話は、ちょっと違和感を感じると、話がまったく入ってこなくなることもあって、敬遠しがちだったけれど、この本は非常に読みやすかった。翻訳者で本を買ってみるのも、いいかもしれないなあ。

松本隆「微熱少年」

 

 この本の感想を書くのは、なんだか難しい。昨年、風街レジェンドに1人でこっそり参加するほど、この人の言葉を好きだと思っているけれど、果たしてこの人本人のことを、私は好きなんだろうか。本人と会話をしたことはあるわけがないし、40年前のこの人のことなんて勿論知らない(生まれていなかったから、母から話を聞くくらいだ)。はっぴいえんどの音は好きだし、この人の詞は暗記するほど読んだり聞いたりしている。でも、それがこの人本人を好きだ、ということには繫がらない、と思ってしまう自分がひねくれているのかしら。この本からは、若さとちょっとした迷いが感じられるような気がする。文章にすることで、迷いを明確にしたり、自分の気持ちを明確にしていたり、たまにぶれてみたり。

 

ただ確かに言えることは、あの歌詞(誰もが持っている一番好きな歌のものでいい)を書いた瞬間のこの人のことを好きなんだ、ということ。自分が少しずつ変わっていっているのだから、この人だって変わっているにちがいなくて、だけど、あのとき聞いたあの歌のあの歌詞は、私の一生に残りつづけて、その歌詞を書いてくれた瞬間のこの人のことを愛さずにはいられない、と思う。

川端康成「掌の小説」

 

掌の小説 (新潮文庫)

掌の小説 (新潮文庫)

 

 1月に日本語の通じない場所に行ったとき、日本らしい話を日本語で読みたくなるかな、と思って、この本を持っていったんだけど、結局帰ってきてから、ずっと読んでいた。前にも一度読んでいたのだけど、そのときよりも、若いなあ、という感じがあった。若い頃に書いた話だ、とちゃんと解説にあって、そりゃそうだよな。最初に読んだときは、読んでうっとりするだけだったのだろう。

 

100篇以上の短い話を書いて、そこからあの何とも言えぬ美しさのある、変態的(良い意味である、何回も言っているけど)な長篇に繫がっているのかと思うと、この人の書く力は、やっぱり才能だけではないのだよなあ。短い中に、沢山の感情や、人との交差が渦巻いて、今もやっぱりうっとりしている。

「新潮01月号」

 

新潮

新潮

 

 昨年末に買ったというのに、今頃読み終わった。家に帰ってから、パラパラ、と読み進めているので(外出時は文庫本を持って歩いている)、だいぶ時間がかかってしまった。ここに文芸誌を定期購読できない理由がある。私の読むスピードの遅さよ…。こればっかりは、もう速くならないだろうし、むしろこれからどんどん遅くなるだろうから、読む量って減っていくんだろうなあ…。恐ろしや。

 

新潮はいつも1月号が豪華、という印象があって、ついつい購入してしまうのだ。今年も、今注目されている作家の短編がいくつも載っていて、それぞれの面白さがあって飽きない。同じ時代に生まれて、同じように小説を書くのに、書くものは全然違う。作家っていう職業が、一括りに同じ仕事をしているわけじゃない。それって本当は、日本社会の中では、やはり異質だよなあ、と思う。この本の中では、女の作家の方が面白い印象だった。ただ単に、私が女だから、妙に息苦しい感じが好きってだけかもしれない。