外山滋比古「思考の整理学」

 

思考の整理学 (ちくま文庫)

思考の整理学 (ちくま文庫)

 

 気になっていたので読んでみたのだけど、なるほど、30年経ってもいまだに読まれつづけているというのは、なんとなくわかる。

 

30年では人間の脳味噌はそこまで発達しないだろうから、思考の整理方法はそこまで変わらない。この本が参考になるのは、そういう点なのかなあ、と思う。でも、30年でコンピュータは、人間と違って、急速に発達している。記憶装置としての役割をどんどん超えていく。人間とコンピュータの関係、立ち位置なんかは、また変わっていくのだろうなあ。人間の脳味噌は、そんなに速く発達しないのに。なんか疲れちゃうなあ。

津村記久子「とにかくうちに帰ります」

 

とにかくうちに帰ります (新潮文庫)

とにかくうちに帰ります (新潮文庫)

 

 この人の話は、読みたい気分のときとそうでないときがある。そうでもない気分であったのに、手に取ったら、少し疲れてしまった。職場あるある話って、仕事で疲れているときには、読んではいけないのね。

 

職場あるあるとはいっても、あくまでも女性目線だなあ、と思う。女性特有の目線という意味ではなくて、会社という組織の中で女性が置かれるポジションからの目線、と言えばいいのか。女は楽でいいね、とか言っちゃうような人が、この本を読めばいいのに、と思うけど、そういう人は絶対読まないだろうなあ。

湯本香樹実「夜の木の下で」

 

夜の木の下で (新潮文庫)

夜の木の下で (新潮文庫)

 

 このタイトルを見ると、桜の木の下にかかっているのだろうか、とちょっと思ってしまう。内容的には、そんなことはないか。

 

久々にこの人の本を読んだけれど、やはり優しい読み心地だ。決して、この本の中に出てくる人たちが、優しい世界に生きているのかというと、そうではないのだけど、それでも優しさに満ちている。世界はいつだって優しくない面を持っているけれど、優しい人との出会いが、世界の見え方を変える。誰にでも、そういう人との出会いがあれば、と思う。人でなくても、本の中ででもいいから、出会えればいい。

カフカ、頭木弘樹「絶望名人カフカの人生論」

 

絶望名人カフカの人生論 (新潮文庫)

絶望名人カフカの人生論 (新潮文庫)

 

 これって絶望なのだろうか。この人にとっては、普通に考えたり思ったりしていることで、毎日の日常の呟きみたいなものなんじゃないのかなあ。別に絶望しているわけではない気がする。いや、勿論落ち込んで、絶望していると思っているときもあるだろうけれど。このぐらいのテンションが、通常営業という印象がする。

 

これだけネガティブなことを言われたら笑えてくる、と最初に書いてあるんだけど、私には共感というか、同意するところばかりが多くて、別に笑えるところはなかった。似たようなことを考えていた人がいる、とわかることは、心強いところはある気がする。まあ、ここまでひどくはないかなあ、とは思えるかもしれない。

川上弘美「水声」、今村夏子「あひる」

 

水声 (文春文庫)

水声 (文春文庫)

 

 この人は、たぶん起こり得ないだろうなあということを、あまりにも普通に書くから、たまに怖い。

 

家族の形、みたいなことが解説に書かれていたけど、家族とも呼ばないものが描かれているように思われた。個人と個人が、ただ集まったような感じ。私には家族というものがよくわからなくなるときがあるから、この感想はあんまり参考にならないかもしれない。

 

「すいせい」と読むというのがずっとわからなくて、今解決した。

 

あひる (角川文庫)

あひる (角川文庫)

 

 最初に出た本を読んだときに、芥川賞とか受賞しそうだなあ、と思っていたけど、本当にそうなったので、よかったよかった。まだ読んでないけど(そしてたぶんしばらく読まないだろうけど)。

 

この人は、いつも社会に馴染めない人の方から話を書くなあ、と思っていて、それがとても沁みる。大人の社会への馴染めなさも、子供にとっての狭い世界での馴染めなさも、実際、本人にとっては深刻なことだ。馴染めないことを解決しないままの、なんだか超然としたような話の終わり方が、私は好きだ。

 

望まなくとも生まれたからには、社会に馴染めなくても生きていかなければいけなくて、馴染まないなりの生き方ってある、と思いたい。そういう世の中になってほしい、という、困難な願望でもある。