川端康成「千羽鶴」

 

千羽鶴 (新潮文庫)

千羽鶴 (新潮文庫)

 

 本を買いにいけないときは、一度読んだことのある本を、山の中から抜いてみるのだが、今回は崩壊した山の一番上に乗っていたこれを読んだ。いやはや、崩壊するほど本を積んではいけない。だけど、本棚に入りきらないと、積むしかできないのだよなあ。困ったもんだ。

 

それにしても、一度読んだといっても久しぶりだったからか、ものすごく胸震えて、歯をぎりぎりしてしまった。こんな話だったか。主人公の男が、ダメすぎてダメすぎて、一方でいい人すぎる。あ、これ、ダメ男に引っかかる感じか。でも、それがいいんだろうなあ。持って生まれた資質というか、家柄というか、品というやつだろうか。上品さがないと、この話は成り立たないなあ、と思う。私の周りにはそういう人もいないし、自分自身もまったく関わることがないから、まったくもって、遠くて、ただ単に惹かれる世界だ。面白く読めるのは、そのせいかもしれない。

 

千羽鶴」の続きとして、「波千鳥」が入っているのだけれど、中途半端に終わるし、蛇足なのでは、と思ったら、完結していないようだ。この人のネタ帳(とは言わないだろうけど)を盗んだやつは、本当に殴るだけでは気が済まないほどの、このふつふつとした怒り。永遠に、この話の中の人たちは、宙に浮かんだままかと思うと、ああ、もう、やるせない。ネタ帳という即物的な価値よりも、この人の書いた文章が永遠に残ることの方が、私にとっては価値があるのに、なんなんだろうなあー!