ジュンパ・ラヒリ「その名にちなんで」

 

その名にちなんで (新潮文庫)

その名にちなんで (新潮文庫)

 

 なんとなく手に取った本が、とても興味深いとき、本が好きで、本を選ぶ時間が好きで、よかったなあ、と思う。

 

多くの人に、名前って意味を持って付けられると思うのだけど、この本の中では、特に意味を持って使われている。登場する人物が、名前のように生きたり、名前にとらわれたりする。名付けられることって、人生ではじめて与えられるプレゼントのようなものなのだなあ。名前は、相手のことを本当に思って、プレゼントすべきものだ、とつくづく思わされる。

 

日本語以外の話は、私が読んできたものだと、三人称で進んでいくものが多いなあ、という印象がある。この本も三人称で進んでいく。三人称で書かれていると、不意に話の主体が入れ替わっていて、この話はこの人の目線に変わったのか、と驚くことがある。この話は特に、時系列で坦々と語られていくせいか、あまりに自然に主体が変わっていくので、目線の変化が面白い。主人公が1人いるにはいるのだけど、1人だけでは完結しない。生きていれば、1人で完結しないのは当たり前なのに、本を読んで、改めて他人の目線を感じる。

 

主人公は、生まれたときから、何故か別れの気配を持っている。そのせいか、この本全体に別れの雰囲気があるなあ、と思う。別れが起点となって、また新たな別れを生む。さよならだけが人生だ、という言葉を思い出す。そうなんだ、そのとおりだよなあ。別れっていうのは、大きな出来事で、人間を大きく動かす。そうして、新しい展開へと自分を持っていかざるを得ない。生きていくということは、ずっとそのくり返しだろう。別れがありつづける限り、この物語は坦々と続いていくのだろうなあ。