アンナ・カヴァン「氷」

 

氷 (ちくま文庫)

氷 (ちくま文庫)

 

 なんとも不可思議な話だなあ。現実なのか、空想なのか、空想ならば誰の空想なのか。主に登場する人は3人いるのだけれど、この3人ともが本当に存在しているのかさえ不確か。語り手である主人公でさえ、そんな存在であることが、この話の不安定さを象徴している気がする。読んでいるだけで不安になる。だからといって、読んでいられない、という気持ちよりも、早く安心したい、と思って読み進めてしまう。

 

だけど、読み進めたからといって、まったく不安からは解放されない。ようやく安定したか、と思ったときには、すべてが終わってしまうのだ。言葉どおり、すべて。

 

結構昔の話なんだけれども、最近の世界の状況ととてもかぶっていて、ああ今の時代は不安定で不安に溢れている、ということなのかもしれないなあ。