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ジュール・ルナール「にんじん」

 

にんじん (新潮文庫)

にんじん (新潮文庫)

 

 10年ほど前に、学校の先輩の本棚にあったこの本。「小説はこれしか持っていない。これしか好きじゃない。」と、たしか言っていた。それをふと思い出して、私は手に取ったのだけれど、いったいどんな気持ちで、先輩はこの本を持っていたのだろう。読み終わったときに、少し考えこんでしまった。

 

今の言葉で言えば、虐待を受ける子供の話、ということになるのだろうか。とにかく、この本の中でずーっと主人公は母親にいじめつづけられる。少年期から思春期くらいまで、主人公はどう考えても、かわいそう。ただそれは、どうして母親が虐待するのかとか、母親やその他の人から主人公がどう見えるかとか、そういうことは一切書かれていなくて、主人公のことだけに話が集中しているからかもしれない。

 

主人公である、にんじんの本名はついに出てこなかった。にんじんという人格であると主人公が思い込んでいるのか、自身ではなくにんじんという人格が虐待されていたと思わないと書けなかったのか、そう考えると、虐待は終わっても、虐待が心に残したものの根の深さにつらくなる。