松田青子「スタッキング可能」

 

スタッキング可能 (河出文庫)

スタッキング可能 (河出文庫)

 

 人なんて代替可能のAさんでもBさんでもCさんでもある、と思わされて、つらい。かなり明るい感じで書いてあるのだけど、内容は暗いなあ。もうすぐ結婚する女、ってこんなにいっぱいいるのかしら。いるんだろうなあ。日本よりは、ヨーロッパあたりの童話っぽい感じ。

 

昔、ジェンダーについての授業を受けたことがあるんだけど、そのときに感じた、居心地の悪さ、みたいなものもあった。性別って、いろんな申込書でも履歴書でも、どんなときにでも男か女かで丸を付けなくちゃいけない。それは生物学的な性別で、ジェンダーはそれとは違って、社会的な性別のことを言うのだったかな(あまり詳しく覚えてなくてすいません)。生物として、性差は必ずある。だけど、社会的に差別があってはいけない。そういうような授業だった記憶がある。そのとおりだなあ、と思う一方で、どうしてこんなに女ということにこだわるのだろう(女の先生だった)、とも思った。こんなにも女ということを意識しなければいけない世の中、世の中が当てはめたがる女という枠組みからどうにか出ようとすること自体が、本当はものすごくいらないことなんだよなあ。でも、その女の先生は結婚していて、旧姓で仕事をし、夫はすごく理解がある、という自慢もしていて、なんかそういうところにも変な感じ、居心地の悪さを感じていた気がする。

 

そんなことを思い出すような、女の意識、みたいなものを感じる話だった。

筒井康隆「残像に口紅を」

 

残像に口紅を (中公文庫)

残像に口紅を (中公文庫)

 

 テレビで話題になったけれど、だんだん言葉がなくなっていく、という話。こうやって書くと、なんだか簡単な感じに見えるけれど、だいぶ複雑で面倒なことをしている。こんな面倒なことをしようとするのが、面白いなあ。

 

内容は、というと、唐突に変な人が出てきたり、無理矢理話を変えたり、ビックリする流れもある。中身があるのか、というと、そんなに中身は重要じゃないのかなあ、と感じてしまった。言葉がなくなっていく過程で、書いてみたい場面をどういうふうに書くのか、という実験なのかもしれないなあ。

ジョージ・ソーンダーズ「短くて恐ろしいフィルの時代」

 

短くて恐ろしいフィルの時代

短くて恐ろしいフィルの時代

 

 装丁のポップな感じ、登場人物たちの可愛いファンタジーな見た目とは違って、内容がとてもおどろおどろしい。童話のようにすぐに読めるのに、怖くて不快な人間の部分が、ひゅっと心に入ってくる。強くて、恐ろしいものに、惹かれてしまう人間の深層心理って何だろう。人間は善なんだと、神様は本当に思っているのだろうか。

ケン・リュウ「紙の動物園」

 

紙の動物園 (ケン・リュウ短篇傑作集1)

紙の動物園 (ケン・リュウ短篇傑作集1)

 

 SF、と思って手に取ってみたら、自分にはファンタジーっぽく感じられた。でも、SFとファンタジーの違いって難しい気もする。SFファンタジーとも言うし。ジャンルなんて、分類したい人がしているだけなんだろう。

 

読んでいると、ずっと悲しい感じのする話。手放しで、好きだ、とは言えない。とにかく、知らないことが多すぎる。どうしてこんなに、知らないことが多いのだろう。

伊藤計劃「ハーモニー」「The Indifference Engine」

 

ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

 

 

The Indifference Engine (ハヤカワ文庫JA)

The Indifference Engine (ハヤカワ文庫JA)

 

 すっかりこの人の本を読むことにはまっていたのだけれど、これでもう新しい小説を読むことはできないのか、と思うと、ただただ単純につらい。新しい言葉を、この人はどう発したんだろうなあ。

 

SFというのは、過去から見たもうひとつの未来、ということになるんだろうけれど、こうも今現在に近くて、この話に近付いていっている現実が見え隠れしていると、本当にゾッとする。この人に対してのゾッと、今現在生きている人間に対してのゾッ。この人はたぶん、ものすごく人間をポジティブに捉えていて、人は裏切りもするけれど信じるに値するものだ、と思っている気がする。この本を読んで、皆、人間を信じることができるか?自分を信じることができるか?